■ヒシャク貸せ! |
|
気仙沼地方の海の幽霊の代表といえば船幽霊でしょう。濃霧の日に舟をこいでいると、別の舟が近づいてきて「ヒシャク貸せ!」と語るのです。ヒシャクを貸してしまうと、それを使って舟に海水を入れられてしまうので、貸すときは必ずヒシャクの底を抜くものだという言い伝えがありました。
また、江戸時代に気仙沼に来訪した文人、菅江真澄は、大島へ渡る舟の上で、もう一つの舟幽霊の話を聞いています。
あるカツオ船が沖で停泊している時、大勢の人が乗っている怪しい船がやってきて「そっちの船に乗せてくれ」と言い、次々と乗ってきました。幽霊船と判断した船頭は、飛び乗ってくる者の頭を次から次へと押さえて、船室のナマ(※1)というところに押し入れました。夜が明けてきたころに板子(※2)を上げて見たところ、たくさんのクラゲが入っていたということです。 |
 |
■大阪徳蔵、山乗った |
|
海の怪奇のひとつに、海上を航行していると突然、山が現れ、陸だと思って上陸すると海に転落してしまう話があります。
昔、志津川町の寺浜に大阪徳蔵という人がいて、元旦にオヤフネ(※3)に乗って沖へ出たところ、山が現れました。その山をよけて進めば陸にぶつかることがわかっていたので、あえてその山を越えていったら無事に航海を続けることができたそうです。今でも寺浜は「大阪徳蔵、山乗った」という言い方がされています。
大阪徳蔵とは、別名「桑名徳蔵」という全国的にも名を知られた”船頭の神様”のことで、「徳蔵回し」という帆船が逆風に向かって航行する方法を編み出した人です。船幽霊も、”神様”の徳蔵にはかなわなかったようです。 |
 |
※1: ナ マ |
・・和船の中の一角。御船霊様が祭られている帆柱の後ろの部分で、水死体などを上げる場所のこと。 |
※2: 板 子 |
・・船の底に敷いた揚げ板のこと。 |
※3: オヤフネ |
・・「親船」とも書くが、ここでは「回船」のことを指す。沿岸航路で旅客または貨物の運送を業とする船のこと。 |
|